長く持っているもの
「ハイジの家」と呼んでいたミドリ色の屋根の遊具の前で、直立不動で立っている子どものころの姉とわたし。父が撮影した写真をシールにしたものがキキララのピンク色の箱に貼られている。薄汚れた箱はパンパンに膨れあがり、スナップでどうにか止まっている状態だ。
ふたを空けるとスヌーピーやハローキティなどのキャラクターものや定規で切り取ったルーズリーフの一部などの紙きれがドサッとこぼれ落ちた。
友人Aが作ってくれたピザやサラダを食べ終わると、箱の中身をつかんでテーブルの上に広げる。わたしはビールを、Aは「紅茶の味がする」というノンアルコールビールを飲みながら、小さく折りたたまれた紙をひとつひとつ開いていく。
「今の席がいやすぎて泣きそう」とか「テスト前いつ遊ぶー?」といった高校生のたわいもない日常が書かれている。「さっきの返事、これじゃない?」とペアを見つけては「おお!」と盛り上がる。
「ねえ、ルンバケってなんだと思う?」わたしが手にした紙には、ちょっと大人っぽいAの字で「ルンバケ、見たよー」と書いてあったのだ。「えー、わかんない。なんだろう?」2人とも全くおぼえていないのに、とりあえず思い出そうというそぶりをする。ひと通りチェックし終えると、箱から新たな紙束を投入する。
「ルンバケの正体、わかったよ」
Aが笑いをこらえながら、十字に折り目のついた小さな紙を手渡した。「出口智子、すぶたとしのぶwithナオコ・キャンベル……」自分が書いた文字を読み上げる。当時人気のあったドラマ「ロングバケーション」のパロディのつもりらしい。表面にはご丁寧に「ザ・テレビジョン」と書いてある。
「なになに?」と隣の部屋で昼寝をしていたAの夫のYちゃんもやってきて、「やっていることが今と全然変わってないよね」と3人で笑った。
「次回は、対になってるものを集めた手紙スクラップを作ろうね」。大井町駅の改札まで見送りにきてくれた2人と、そう言って別れた。
※米光一成さんのライター講座に通っていたころに書いた文章を一部修正したものです(タイトルは課題のテーマです)。この”箱の中身”がなくなってしまいとてもショックだったので、気持ちの整理のためにアップしました
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